試合は、完全に劣勢だった。
相手の強さは本物だ。
応援席の盛り上がりも全く違う。

頼之さんはともかく、部員の動きがいつもより悪い……萎縮しているのだろう。

何とか点を取られずに済んでいたのは、頼之さんがチームを守りに徹しさせていたから。
相手のペースでゲームをさせないために。
ハッキリ言って、地味だし辛抱強くなければ耐えられない戦いかた。
頼之さんらしくて、涙が浮かんだ。

「あー。寒い?」
彩瀬が私の様子を心配してくれている。

「大丈夫。頼之さんの貸してくれたジャージもあるし。彩瀬は?つらくない?」
「風が、気持ちいいよ。」

確かに今日の風は爽やかだった。
やつれていても、彩瀬は美しかった。

この人の子供が私のお腹の中に……いるのか。
物心ついた時から、恋い焦がれた愛しい彩瀬の分身。
……何としても守らなければ。

両親は、当然、反対するだろう。
学校は?
退学するか休学するか……いずれにしても一悶着ありそうだ。

彩瀬は?
どういう反応をするのだろうか……。
もし、反対されたら?

怖すぎて、私は少し震え始めた。
彩瀬が自分のかけていた膝掛けを私にもかけてくれた。

ピッチで走り回って、部員に指示を飛ばす頼之さん。
……そっか。
さっきのやりとりを思い出して、私の震えが止まる。

少なくとも頼之さんは、反対してる様子はなかった。
むしろいたわってくれてた。
……頼之さんの立場なら、逆に私を侮蔑してもおかしくないのに。

たった1人でも肯定してくれる人がいるって、ありがたい。
私は膝掛けに隠れて、こっそりと両手でお腹を包んだ。

後半戦に入ると、相手チームの選手が入れ代わり始めた。
頼之さんたちが守りに徹したことも手伝い、明らかに相手は攻守のバランスを変えた。

でももう一コマ。
あと1人、穴が欲しい。

頼之さんはじっと耐えていた。
佐々木がゲームに参加させてもらえず苛々しているのが手に取るようにわかった。

もう少し。
あと少し。
相手チームの指導者との根比べ。

「全然、点が入らないねえ。」
彩瀬が少し退屈そうに言った。

「うん。点が入らないんじゃなくて、点を入れさせないためだけに動いてるの。」
実はすごいことなんだよ、という言葉を飲み込んだ。

残り5分。
痺れを切らした相手チームが動いた。
守りが手薄になった。
出来た!

「彩瀬。点、入るよ。」
私は片手を伸ばして、彩瀬の手を握った。

頼之さんは、生まれた穴を的確に突いた。
カットしたボールを、想定通りのコースを通したパスワークで運び、佐々木へ。

佐々木のシュートはキーパーに弾かれたが、突進してきた頼之さんが拾って、シュート!……するかと思ったら、もう一度佐々木に回した。

佐々木は今度はしっかりとゴールを決めてくれた。