……そっちか。
ちょっとホッとすると同時に、別の不安に襲われる。
胃潰瘍で済むといいけど。

「頭、ガンガンしてきた。頼之さん、優しく運んで。揺れて、吐きそう。」
そうお願いすると、頼之さんは、くっと笑った。

「あおいは変わってへんな。安心したわ。」
頼之さんも全然変わってなくて、胸が少し痛んだ。
「吉川は余裕なくてしんどそうやけどな。先月あいつ、俺に何て言うたと思う?」

「……怖くて聞けん。めっちゃ恥ずかしいこと言うてへん?」
「おー、恥ずかしがれ。『あーが小門くんのために作ったケーキとココア、僕が食べちゃった。ごめんね。それとあーも僕が食べちゃったから、小門くんはずっとあーの2番目でいてね。手は出しちゃだめだよ。』だ!」

ひーっ!!!
私はあまりの恥ずかしさに、両手で顔を隠した。

「こら、隠すな。どや?恥ずかしいやろ?俺でさえ、ゆーてて恥ずかしくて、痒ぅなるわ!」
「すんません!すんません!勘弁してください!」

ついジタバタしてしまい、頼之さんに怒られた。
「ちょ!バランス崩れるから!おとなしく首に手ぇ回しとって。」

「はい。すみません。」
諦めて、頼之さんにしがみつく。
目の前の喉仏が男らしいというか、首の太さがたくましいというか、目の毒だわ。

「傘、さして。」
頼之さんに言われて折り畳み傘を開く。

「まさか、このまま雨の中、行く気?重くない?」
「全然。いいやろ。そんな遠くないし。……役得。吉川も文句言えんやろ。」

頼之さんはそう言って快活に笑った。
……かっこいいなあ、もう!

ずっと頼之さんに顔向けできない、って思ってた。
次に顔を合わせたら、どんな顔すればいいんだろう、って。

でも、頼之さん、おっきいわ。
ほんと、いい男。
大好きだよ、彩瀬の次やけど。
でも、彩瀬より男としては、はるかにかっこいいってわかってるのに。
……ごめん……。

頼之さんが連れてってくれたのは、駅近くの内科クリニックだった。
母と彩瀬が会計の窓口前に座っていた。

慌てて頼之さんに下ろしてもらったけど、2人にしっかり見られてしまった。
「吉川と同じクラスの小門です。妹さん、貧血で動けないようでしたので、失礼しました。」

小門さんは、母にそう言って頭を下げて挨拶した。
「小門くん。ええ、聞いてます。彩瀬がいつもお世話になっているそうで。ありがとうございます。」

「あー?貧血って。大丈夫?」
彩瀬が頼之さんを無視して私に駆け寄った。

「いや、大丈夫?は、吉川のほうやろ。どやった?検査。」
頼之さんが苦笑しつつ、聞いた。

「ちょっとめんどうなことになりそうだよ。」
彩瀬はそう言って、ため息をついた。