「あー。戸籍謄本見たことある?」
彩瀬に愛された後。
汗で額に張り付いた私の髪を整えながら、彩瀬がそう聞いた。

「ない。彩瀬は?見たの?」
「うん。昔。……残念ながら、ちゃんと僕とあーは兄妹だったよ。」
「そうなん?」

少し意外だった。
本当に兄妹だったという事実にも、彩瀬が戸籍謄本を見たことがあるということも。

「何で?戸籍謄本って、彩瀬が取ってきたん?」
彩瀬はふるふると首を振った。
「まさか!あーが生まれて、出生届を出して、その時に戸籍謄本ももらったって。小学校に行く頃かな……僕とあーがあまりにもくっついてるから『兄妹は結婚できない』って謄本を見せられて諭されたよ。」

え?
そんなことがあったんや。

「彩瀬、悲しかった?」
「うん。すごく。あーがどんどん綺麗になるから、不安で不安でたまらなかったよ。いつか誰かのものになる、って、とても受け入れられそうになかった。」

……彩瀬の言葉を聞きながら、私はぼんやりと違和感を覚えていた。
出生届を出した時に戸籍謄本を取った?
何のために?
そこに何らかの意図がある気がして、私はいつまでも引っかかりを感じていた。

しばらく黙って思考に陥った私が気になったらしく、彩瀬はもう一度私を抱いた。
悪戯っ子のように、私を翻弄することが楽しいらしい彩瀬。
満足したらしく、動きを止めて背中を撫でてくれた。

「ずっと妹だから手を出したらダメって我慢してたけどね。こうなってみて、僕、気づいちゃったんだよね。『赤毛のアン』のマシュウとマリラだってずっと一緒に暮らしてるよ?子供さえ作らなきゃ、別にいいんじゃない?僕ら、ずっと2人で生きても。」

私は驚いて彩瀬を見た。
彩瀬は冗談を言う人じゃない。
いたって真面目に考えた結論なのだろう。

「彩瀬、気づいてる?それってプロポーズみたいなもんやで?」
少し茶化してそう言ってみた。

彩瀬は、不思議そうに言った。
「うん?そのつもりだよ。もう何度も言ってるじゃない。もう、あーを手放すつもりないから。小門くんにもあげない。貸してあげるのも、嫌。あーは僕だけ見ててね。」

100%本気の彩瀬に、私はどう返事すればいいかわからず……ただうなずいた。