「でも、小門くんにチョコレートケーキ焼いたんでしょ?……僕、あれで、頭の中真っ白になっちゃった。これ、嫉妬?」
そう言って、ふふふと彩瀬は笑った。

嫉妬、してくれたんだ。
素直にうれしい。

「せやけど彩瀬、今ケーキなんか食べられんでしょ?ココアなら飲めるかな~って思って準備しとったよ。……てゆーか、大丈夫?身体。すごく心配。彩瀬、もしかして違法ドラッグしとらん?この短期間で痩せ過ぎ。吐血もしとーやろ?」

彩瀬の鎖骨に指を這わせながらそう聞くと、彩瀬が反応した。
「……どうかな。いろんな人に勧められるままにイロイロ飲んだから、よくわかんない。どれも、セックスが気持ちよくなる薬って言われたんだけど……あーとするのが一番気持ちいい。」

ニコーッと彩瀬は心からの笑顔で言った。
……いろいろ文句はあるけど……責めるのはやめた。
彩瀬が性に奔放なのは、今に始まったことじゃないのだろう。

ただ、私を対象としてなかっただけのこと。
でも、これからは違う。
「じゃ、他の人とやっちゃ、ダメ。私だけにして。お願い。」

彩瀬の薄い胸に、頬をスリスリと擦り付けてお願いした。
「……努力します。でも、僕、誘われると断れなくて。あー、なるべく僕のそばにいてね。」

久しぶりに私は、白痴美人全開の彩瀬の笑顔を見た。
かなわないな。

しかも、よく考えたら、吐血の話はスルーだ。
一番心配なことなのに。

朝になって、母親が起き出した音がしてから、ようやく彩瀬は私を解放した。
慌てて衣服を整えて台所へと向かった。
「あおい。これ、どうするの?ココア、温めて持ってくの?」

「おはよー。うん、そうする~。」
私はミルクパンを火にかけて温め直すと、保温できる水筒に詰めた。

……彩瀬と仲直り、というか、そういう関係になっちゃったことは内緒のほうがいいだろう。
せっかく落ち着いてる親子関係になるべく波風を立てたくない。

しかし私の考えが彩瀬には伝わってるはずもなく、彩瀬は
「あー。ココア入れて~。作ってくれたんでしょ?」
と、ニコニコと現れた。

……2人の関係がバレるのは時間の問題かもしれない。

結局、チョコレートケーキもココアも頼之さんには渡せなかった。
放課後、彩瀬のほうから私を迎えに来たのだ。

「一緒に食べよう。」
2月の寒い寒い公園で、私たちはガトーショコラとぬるくなったココアを飲んだ。

やっと訪れた幸せな時間に私たちは有頂天になった。


夜、彩瀬の部屋のベッドに忍び込む。
ずっと昔から昨秋まで続けてきた習慣だけど、もう寝たふりをする必要もない。
心の赴くまま、愛を囁き、愛を伝え合う。
愛してる。
彩瀬を、心から愛してる。

幼い頃から唯1人のかけがえのない人。
私たちはお互いを貪るように求め合った。

淋しかった日々を埋めるように。

私と仲良くなって、彩瀬は少し落ち着いた。
少量でも、一緒に食事をとるようになった。

得体の知れない違法ドラッグから離れられたのもよかったのかもしれない。

青白く常に貧血のようだった顔にも血の気が戻ってきた。
……よかった。