私はそれを聞いてすぐ、右手を伸ばして、頼之さんの眼鏡に触れた。
「貸して。」
頼之さんが不思議そうに、自分のかけてた眼鏡をはずして、私に手渡す。
私は、預かった細い銀の眼鏡を大事に持って、いろんな角度から眺めた。
「これ、ずっと気になっててん。シンプルなようで洗練されてて、好き。頼之さんによぉ似合ってる。」
頼之さんは苦笑した。
「好きなのは、眼鏡、な。」
「頼之さんも、好きやで。彩瀬の次に。これ、純銀?」
さらっとそう言う私に、頼之さんはちょっと困っていたようだ。
「……ああ、ほっといたら黒くなるし純銀やろな。フランスのアンティークらしいわ。」
「納得!うん、そんな感じ。細い銀フレームってゆーとドイツのイメージ強いけど、もっとオシャレな気がしとってん。綺麗~。いいね~。……はい、ありがとう。かけてて。」
頼之さんは黙って受け取って、再び眼鏡をかけた。
「かっこいいわ。」
うっとり見てそう言うと、頼之さんは変な顔になった。
「……俺は喜んでいいのか?あおいのキャラが変わってるけど……」
そう言えば、そうやね。
「私、相手の私に対する接し方に合わせるとこあるからなぁ。頼之さん、上から目線でえらそうやったから、私もそうやったかも。」
「あきらかに年下の中学生に対してやし、あんなもんやろ。」
そうぼやいてから、頼之さんは何度かうなずいて、笑って言った。
「わかった。俺は、吉川以上にあおいをかわいがるし、甘やかすわ。せやから、不毛な恋愛してんと、俺にしといたら?」
……そう来たか。
頼之さんらしくて、私の心が和んだ。
「ありがとう。沁みるわ。……半落ち。」
しんみりそう言うと、頼之さんは私の頭を撫でた。
「あおい、かわいい。すごくかわいい。ずっと一緒にいたいし、しゃべってたいし、触ってたい。」
頼之さんは真面目にそう言ってくれてたけど、私のほうが照れくさくなってきたので、話題を変える。
「で、頼み事って何やった?」
「あー、そやった。うん。冬休みに練習試合の予定いっぱい組んどるねんけどな、あおいに相手チーム見てもらおうと思っててん。……でも頼む前に勝手にやっとってくれるとーし。びっくりしたわ。」
そうだったのか。
「じゃ、頼み事、終了?」
「いや。練習試合見たら、より深まるやろ?頼むわ。」
頼之さんはそう言って、私の手を取った。
「偶然を待ってても、積極的に動かん限り逢えんってわかったから。悪いけど、付き合って。」
きゅーんと胸が疼いた。