ふと通りかかった学校の名前に引っかかりを覚えた。

あ……サッカー強豪校に名前挙がってたっけ。

頼之さんのノートに記載されてたのを思い出した。


興味を覚えて、グランドを覗いた。

頼之さんのチームとは比較にならないぐらい、一人一人のレベルが高い。

本気で、頼之さんが11人みたい。


すごい。

これが、全国レベルか。

私はすっかり見とれてしまった。


しかも、日が暮れても、グランドにライトを灯して練習を続けるのか!

何だか、頼之さん達が勝てる気がしない。

このチームに勝てるとしたら、偏差値ぐらいじゃない?


……いや、もう一つ。

相手を研究し分析し作戦を立てる能力は負けない。

この私がやる限り。


一人一人の実力と癖、弱点、そして、チームとして練習を重ねてるコンビネーションプレイをじっくり見せてもらってから私は帰路に就いた。


……頼之さんの携帯番号かメアドぐらい聞いておけばよかったかな。

とりあえず、口で伝えるより確実だろう、と、ルーズリーフにせっせと記した。

ついでに、彼らから確実にボールを取れそうなポイントと、攻めやすそうなルートも記す。

……意外と楽しくて、私は、かなりはまっていた。


嫌なことを忘れられるだけじゃなくて、満足感を得られるような気がした。



翌日からも、私は、独りでサッカー部巡りをした。

神戸、芦屋、西宮、宝塚、尼崎。

簡単に行けるところだけでも、かなり網羅できた。

ルーズリーフがどんどん溜まっていく。

一冊のファイルに綴じこんでみたけど、いつ渡せるのかな。



彩瀬は、毎晩遅くまで帰ってこなくなった。

酔ってる日もあるらしく、母親が心配していた。


……同じ家に住んでるのに、顔を見ない日まであった。

淋しさも切なさも心に閉じ込めて、鍵をかけた。


恋慕する心だけは、それでもずっとしつこく残存していた。




二学期の期末テスト直前、学校の門のところで頼之さんに待ち伏せされていた。

「ひさしぶり。今、いいか?」

「テスト前やし、あかん。」

「あおいには関係ないやろ。ちなみに俺も今日からテスト終わるまで部活休み。……やっと来れたわ。」

頼之さんの笑顔は、爽やかで快活だった。


涙、出そう。

弱ってるなあ、我ながら。


「あおい、痩せたってゆーより、やつれたな。」

カフェとは呼べない古い喫茶店のコーヒーで暖を取りながら、頼之さんが心配そうに言った。

「ちゃんと食っとーか?……吉川も、人相変わるぐらい痩せたし。お前ら、何やってるん?」


「仲違(なかたが)い。ずっと彩瀬に無視されてる。」

じんわりと涙が浮かんできた。


「……極端なやつ。あそこまでベタベタに甘やかしといて無視は堪えるわなあ。」

頼之さんが理解を示してくれるのが本気でうれしくて、私は恥も外分もなく、ボロボロ泣いた。


ギョッとして、頼之さんは慌てて自分のハンカチを貸してくれた。

「ありがとう。」

私は遠慮なく、頼之さんのハンカチで目を押さえた。


「あおいが普通に素直でかわいくて面食らうわ。」


頼之さんは私の頭をポンポンと軽く叩いた。