開けっ放したドアの向こうから、彩瀬が顔を出した。
「お話、一段落したら、夕食できてますよー、ってお母さまが仰ってるよ。」

「は~い♪」
私は彩瀬の駆け寄って腕を取った。

「お話、終わったの?」
「うん!」
「いや、まだ、頼んでないんだけど。」
後ろから不満そうに頼之さんがぼやいてるけど、無視してダイニングテーブルについた。

頼之さんのお母さまが準備してくださった夕食は、かにすき!
立派な松葉蟹が豪快に並んでて驚いた。
「毎年、漁の解禁日に送ってもらってるの。ちょうどいい日に来てくれたわ。」

はあ~。
うちとは生活レベルが違いすぎる。

「僕も手伝ったんだよ。これ。」
彩瀬がニコニコと蟹の足やハサミを食べやすくカットして剥いたのを見せてくれた。
すごい!

「えー、どうすればこんなに綺麗に剥けるの?私、めんどくさくってかじりついちゃうのに。」
頼之さんが、ぷっと笑った。

「これ!」
と、頼之さんのお母さまが、頼之さんを窘める。

私がちょっと睨むと、頼之さんは咳払いした。
「いや、失礼。あおいらしくて想像つき過ぎて。ぱっと見ぃ、きれいな子やのに、実態は恐ろしくガサツやから。」
「ほんまに失礼やわ。お母さま~、頼之さんがいじめるんです~!」

「あらあらあら♪女の子っていいわねえ。頼之、好きな子、いじめちゃダメよ。嫌われちゃうわよ。」
……は?

好きな子。

えーと……。

「お母さん。俺、まだ本人にちゃんと告白してないんだけど。」
さしもの頼之さんも、困ってるようだ。

お母さまは慌てて口を押さえたけれど、すぐに開き直ったらしい。
「でも、もう、見たまんま、バレバレよねえ?彩瀬くん。あおいちゃんだってわかってたでしょ?ね、うちの息子、どーお?」
彩瀬は終始あいまいな笑顔をキープしていた。

「勘弁してくれ。」
頼之さんは頭を抱えた。
何だかとてもかわいく見えて、私はほだされた。

「一緒にいると楽しいです。たぶん、彩瀬の次に好きです。」
掛け値なしの本音だったが、微妙な空気が流れた。

美味しい蟹をたらふくいただいて、20時半頃おいとまする。
わざわざお母さまが車でうちのマンション前まで送ってくださった。
「あおいちゃん、今日はごめんなさいね。懲りずにまた遊びに来てね。本当に楽しかったわ。」

「私も楽しかったです。私、両親と不仲なんで、家での食事って、とにかく無言で急いで食べるんです。今日みたいに楽しい夕食、ないよねえ?」

最後は彩瀬に同意を求めた。

彩瀬はひたすら恥じ入って「すみません……」と頭を下げていた。