「何?これ!」
「今のうちの戦力。あおいの目で確認しといて。」
「はぁ!?」

頼之さんはぶーぶー文句を言い始めた私を華麗に無視してグランドに中央へと走って行ってしまった。
ドリブル、パス、シュートの練習を一通りした後、ハーフコートを使って半分に別れて対戦していた。

……ご丁寧にノートに記した順番に技を披露してくれるわけね。
私は苛々しながらも、ノートをチェックした。

下校時間。
頼之さんは、私を迎えに来た彩瀬ごと、本当に自分の家に連れ帰った。

「僕、男友達の家に行くの、はじめて。」
彩瀬はやたら喜び浮かれていたので、私は拒絶できなかった。
……そもそも、彩瀬にとって男友達と呼べる存在ができたこともはじめてじゃないか。

頼之さんの家は、阪急を越えていきなり傾斜が急になる山手にあった。
見たまんま、ええとこの子ぉなわけね。

大きな石の上に土塀、その上に瓦。
ぐるりと取り囲んだこの塀だけで一体どれぐらいの面積と金額がかかるんだろう。

「いらっしゃい。頼之がお友達を家に連れて来てくれるの、小学校以来よ~。しかも美男美女!もう~、こんな可愛いお友達がいるならもっと早く連れてらっしゃいよ~!」
頼之さんの母は、柔らかい雰囲気の、いかにもなお嬢さまだった。

「母さん、吉川に何か作ってやって。」
「……いや、僕、食欲ないから、いいよ。」
「でもたぶんちょっと時間かかるで。こいつ、しつこそうやし。」

頼之さんはそう言いながら、おもむろに碁盤を出してきた。
足付きの分厚~~~い碁盤!
石は、もちろん那智黒と蛤!

「こんなほんまもんで……五目並べ?」
プッと笑って私はそうからかった。

「笑ってろ。ほら、始めるぞ。」
頼之さんは、真面目に石を置き始めた。

……え?
たかが五目並べ、されど五目並べ。
私は、あっさり負けた。

「もいっぺん!」

「なんで!?」

「あれ???」

……何度挑戦しても、頼之さんに勝てない。
やばい。

ふーっと、ため息をついて、質問した。
「だいたい何手ぐらい先を読んで石を置いてる?」

頼之さんは、ニッコリ笑って答えた。
「50手ぐらい?」

……どおりで、敵わないはずだ。
私は、降参して投了した。

「わかった。今日は勝負にならんわ。時間ちょうだい。もうちょっと勉強してくる。」

頼之さんは、真剣な顔をした。
「いつでもリベンジ受け付けたるわ。けど、俺、小学生の時に世界3位になってるから。あおいが天才でもこれだけは負ける気せぇへんし。」

そう言いながら頼之さんは、ズラリと並んだトロフィー類を指差した。