「キャプテンの小門頼之だ。君らが受験に合格して、うちに来るのを待ってる。来年は本気でインターハイに行く。練習はきついだろうけど、結果は出す。そのつもりで、まあ、がんばれ。」

インターハイ?
ここ、そんなに強かったっけ?
驚いて振り返って頼之さんの顔を仰ぎ見た。

「佐々木はいつから合流できる?」
頼之さんがそう話し掛けた男子は、パッと顔を輝かせて立ち上がった。

「今日、もういいですか!?準備してきてます!」
「……俺としてはOKしたいけどな、とりあえず入試を済ませてからにしてくれないか?」
頼之さんは苦笑してそう返事すると、他の中学生を見渡して言った。

「みんなも、入学式まで待つ必要ないから。受験が終わって受かる自信があるなら、いつでも練習に合流してくれ。俺は実力主義だから、やれる奴は一年でも試合に出す。」

佐々木のやる気に動揺した他の男子中学生が、みんな表情を改めてイイ顔になった。
てか、頼之さんに陶酔してるよ、この子達。

「男にも女にも、もてもてやん。」
練習が始まってしばらくしてから、頼之さんにそう囁いた。

「あおいも遠慮なく惚れていいで。俺は顔だけの色男じゃないからな。」
一瞬私は、硬直した。

すぐに頼之さんは、それに気づいて言葉を継いだ。
「あ、そういう意味じゃないから。……吉川を顔だけ、とは俺は思っとらんから。あいつは、癒し系の顔した天性の魔性。」

しげしげと頼之さんを見る。
「それで褒めてるつもり?」

「別に褒めてもけなしてもないけど。事実だろ?」
胸の奥がぐーっと捻れていくように感じた。

魔性。
そんな風に考えたことなかった。
私にとっては、天使でしかないから。

「彩瀬はそんなに……」
自分が頼之さんに何を聞こうとしてるのか、途中で気づいて、私は言葉を飲み込んだ。
頼之さんの目が、私を哀れんだように感じた。

むかつく。
目をそらすと、頼之さんがため息をついた。

「あおいより、吉川が気の毒な気がしてきた。……ま、いいや。あおいは、将棋とチェスはわかる?」
急にゲームの話?

「別に。ルールは知っとーけど、周りに強い人いいひんかったから……」
私の場合、少しかじっただけでも家族も親戚も相手にならなくなってしまう。
強い人とやれば楽しいんだろうけど、碁会所のような場所もないし。

「ふぅん……じゃ、連珠は?連珠なら、俺が相手になれると思う。」
「れんじゅ?」
「五目並べ。」

……え~……。
思わず笑いを含んだ目で見てしまった。

頼之さんは、にやりと笑った。
「五目並べって言うと子供っぽく聞こえるんだろうけど、実は奥が深いんだぜ。」
「でも、五目並べねんろ?」
「あ、馬鹿にしとーな。よし、やろう!クラブ終わったら、うち、来いよ。」

私は心から嫌な顔をして見せた。

でも、頼之さんは持ってたノートを私に渡して、ストレッチを始めた。