彩瀬の膝が治っても、彩瀬の一学期の成績が壊滅的だったことを理由に強引に勉強をさせた。
中学3年生の私が高校2年生の彩瀬に勉強を教える不自然さに対して、両親はいい顔をしていなかった。

でも彩瀬には、塾も家庭教師も効果を望めないこともよくわかっているので……私は彼らの不興を無視してやり過ごした。

……あれから……私は、父が気持ち悪くて……顔を見るのも嫌になっていた。
今までも、父から娘として可愛がられた記憶は一切ない。
仕事で遅いことが多い人だったので、接する時間も少なかったけれど……少なくとも、父は彩瀬を猫かわいがりしていたことは確かだ。

私に対しては、他人のように常によそよそしかったけれど、物心ついた時には既にそうだったので慣れてしまっていた。
でも、あれは……。
実の娘に対する態度じゃないだろう。

あの日から、私はハッキリと疑いを抱いている。
父と思っていた人と私の間に、血の繋がりはないのかもしれない。

もしそうだとすると、彩瀬と私は半分だけ兄妹、ということになるのかな。
……異父兄妹……か。

飛鳥時代なら、堂々と結婚できるのに。



夏休みが終わると、また淋しく不安な日々が始まる。
昼休みや放課後、彩瀬が他の女とやってないか……疑いだしたらキリがなくて気が狂いそうになる。
毎日授業が終わると彩瀬の高校へ走った。

「……あおい、吉川の妹って聞いたけど。」
いつも同じところで彩瀬を待っていたので、小門……さんからフェンス越しに話しかけられるようになった。

「彩瀬がいつもお世話になってるそうで。ありがとうございます。小門……さん。」
一応そう行って頭を下げた。

小門さんは苦笑した。
「気持ち悪ぅ。……らしくないやん。彼はあおいのアキレスのかかと?」
「せっかく『さん』付けて呼んでやってるのに、気持ち悪いって。むかつく。」

そう言うと、小門さんは今度は楽しそうに笑った。
「そのほうが君らしくていい。でもせっかくなら『頼之さん』がいいな。」

私は舌打ちした。
「調子こくなって言いたいとこやけど、彩瀬が世話になってるなら折れとくわ。『頼之さん』!」

小門さん改め頼之さんは、少し驚いたらしい。
「……へえ。麗しき兄妹愛?でも、君ら、血ぃつながってへんやろ?……吉川が、俺のライバルか……やりにくいな。」

私はものすごく不愉快になった。
「あほちゃう?勝手に何言うとんねん。」

頼之さんは、すっと立ち上がって踵を返した。
「どう見ても、ただのブラコンとシスコンじゃないやろ。自覚してるくせに。」

そんなもん、とっくにしてる。
兄妹だろうが異父兄妹だろうが、関係ない。
もう10年以上、彩瀬を兄としてではなく、唯一の人として見てる。
でも、他人に言われたくない。

「……あんたには関係ない。」
私のつぶやきを聞き逃さず、頼之さんは振り返った。

「大有り。ますます、ほっとけんくなった。覚悟しとけよ。」

ビシッと指さされて、私は柄にもなく、たじろいだ。