翌日には、私の熱は下がった。
足の鼻緒ずれも、もう落ち着いていた。
けど、彩瀬の怪我は……てのひらと膝下はかさぶたになっていたけど、膝頭は化膿していた。

「ちゃんと消毒してもらったんだけど……」
たぶん黄色いパウダーの消毒剤を噴霧したのだろう。

私はため息をついた。
「あのね、これだけ深い傷の場合は表面だけ乾かしてもあかんねん。そんな一昔前の治療じゃ、そりゃ化膿するわ。」

文句を言いながら、買ってきたウェットタイプの絆創膏を貼った。
「ありがとう。」
彩瀬はニッコリと笑って、立ち上がろうとして、ちょっと顔をしかめた。

……痛い?
「もっぺん見せて。」
彩瀬の両膝を見て、そっと触れてみる。
両足とも膝頭の周囲が腫れて熱をもっていた。

どうやら、打撲もひどかったのだろう……半月板の下が内出血してるのかもしれない。
私は湿布を細く切って、膝頭の傷の周囲をぐるりと取り囲むように貼った。

「あんまり動かんほうがいいよ。腫れが引くまで。」
「……うん。夏休みでよかったよ。」
彩瀬は、子供のように足を投げ出して座ったまま、ため息をついた。

かわいい。
無防備な白い細い足……ドキドキしてくる。

「神戸の花火までに治るといいね。」
彩瀬は私に笑顔を向けてそう言った。

「……今年はマンションの屋上で我慢してもいいんよ?」
そう言ってみたけど、彩瀬は苦笑してから私の頭を撫でた。
「あーは、ここでみんなと一緒じゃ、くつろげないでしょ?歩けなければ、自転車で行こう。」

きゅん!と胸が疼いた。
彩瀬はいつも優しい。
私がどれだけワガママを言っても、怒らない。

でも……年々、手放しに喜べなくなっている。
むしろ動悸が激しくなったり、息苦しくなることが増えている。
その都度、私は途方に暮れる。

自分の変化に気づかないふりをして、彩瀬を無視したり、逆に振り回したり……そんなことをしたいんじゃないのに。

素直になれなくなっている。

こんなに好きなのに。
彩瀬のことしか、考えられないのに。
彩瀬が欲しい。
彩瀬を独占したい。

糸の切れた風船のように、どこに行ってしまうかわからない彩瀬。
危機感も罪悪感もないままに、人の好意に流されて……たぶん、快楽に溺れてしまう彩瀬。

「じゃ、波止場に行く。こんでても。浴衣は着ないから。自転車で、一緒に行こう?」
私がそう言うと、彩瀬はホッとしたように微笑んだ。
「よかった。夏休みが終わるまで外出禁止って言われるのかと思った。」

……。

彩瀬、出かけたいの?
どこへ?
誰かに逢いに行きたいの?

また不安に襲われた。


長い夏休み、結局私は彩瀬から離れようとしなかった。

寝ても覚めても、彩瀬のそばにくっついていた。