妖しの姫と天才剣士



やっぱり私は寝てしまった。





『茅野ちゃん、逃げ……っ!』




え?

総司……?


ピシャリと跳んだ血飛沫。


それが頬に張り付いた。


これは総司の物……?


『さ、ゆき……』


頬に伸ばされる指。


生温かい感触だけが妙に現実味がある。


何、これ……?




理解でき…………





「⁉︎」



ああ。夢か。


その事に安堵しながらも、胸を締め付ける感覚がなくなる事はない。


襟を握った指は大げさな位に震えていて力を込めても直りそうにない。


「危険に晒す」とはこの事を言っただろうか。


伝う汗はやけに冷たくて……。


汗で額に張り付いた髪を掻き上げる。


脳裏にこびりついた光景はいつまで経っても離れない。



『君はさ、人とは交われないんだよ、紅雪』



そう、由羅に言われた気がした。


私は。


私は………………





此処を……出る。