妖しの姫と天才剣士




「さぁ、君はどっちを選ぶ? 紅雪。僕はいつでもあの場所で待ってるよ」



言い残して消えた由羅を視界に入れながらも私は動けなかった。


動けば、あいつを捕らえられたかもしれない。


一体誰と通じていたのかを知れたかもしれない。


長州の協力者だったら捕らえておいて損はなかった。


有益な情報を得られたに違いないのに。


でも。



それよりも。



心の動揺が大き過ぎて動けなかった。



歩こうとした私は力が入らずに積み上げられた物にぶつかる。


ガタガタガタッ!


頭に当たる痛み。その痛みでも私の沈んだ意識は上げれそうにない。




翌日。


あの後、寝れずに赤く腫れた目は冷水で誤魔化す事にした。


今日は……訓練だったっけ。


総司が指南かぁ。


総司は結構酷しく稽古つける。けど、本気でやれるから楽しいんだけど……。


どうも今日は行く気になれなかった。


体が重くて動ける気がしない。


井戸まで行ったついでにそれまで伝えてしまおうと、私は部屋を出た。


まだ意識は覚めてなくて、足取りだってやけに重く感じて。


一歩一歩歩く事でさえ億劫で仕方ない。