妖しの姫と天才剣士





村の中でも穏やかに暮らしていた家族。


娘一人に美男美女の両親。


周りの村人にも優しく、それはそれは周りから見ても円満で、羨ましがられる家庭でした。


けれど、その日常は突如として崩される事になります。


その家族に目を付けた人物が居たのです。


家族の秘めている能力を。


母方に流れる血脈。


どんな妖にも勝る神殺しの因果を背負った一族を。


その人は家族にこう持ち掛けます。



『その力を我らと共に有効に使おう』



と。


けれど、その話に家族が首を振る事はありません。


力は守る為に使うもの。


私たちは平和に過ごす事が出来るだけで十分だと。


そういって聞かなかったのです。


その人は怒り狂いました。


自分たちに従わなかった家族に、その家族を守ろうとした村人たちに。


大量の妖を従えたその人は一夜でその村を滅ぼしました。


紅く、緋く妖しげに光る瞳は人ならざる者の照明。


母親は気づいてしまいました。


彼が妖の血が混じる『鬼』と呼ばれるものだと。


地獄のような景色に様変わりしてしまった村を眺める母親。


せめて自分の娘だけでも救おうと母親は山の中まで連れ込みました。


一族に伝わる刀をまだ幼い娘に抱えさせるように持たせます。


娘には分かってしまいました。ここで離れれば二度と会えない、と。


泣き叫ぶ娘を置いて母親は村へと戻ります。


娘は一人暗闇の中に取り残されました。



そして、生きる為に人を殺す事を覚えます。


生れながらの驚異的な身体能力と体が覚えている技を使い。


一体、その少女を生かすためにどれだけの人がその命を散らせた事でしょう。


沢山の命を啜った少女は死神にも等しい。


その少女は自分を守ってくれた両親、家族のことも忘れ妖を斬り、人をも切り続けるのでした。