妖しの姫と天才剣士




「へぇ〜気づいてたんだ」



総司は隠れていた所から出てくる。


平静を装っている様で少しだけ焦っているのが私には分かった。


バレるとは思ってなかっただろうし。



「こういう所は一人で来るもんでしょ? 違うかな紅雪」

「一人で来いとは書かれてなかった」



ただの屁理屈。


確かにこういった場所では一人で来るものだろうね。


私だってそういうものだって理解してた。


でも、この私を土方さんが一人で動かせてくれる訳ないでしょう?


彼はそこまで頭が回らなかったよう。



「ははっ! まぁ、そうだけど」



彼はくるくる回りながら笑う。


狂ったように笑う彼の声だけが闇の中響く。


その様子が不気味でならない。



「紅雪。君に一週間の猶予をあげる。だからその内にどっちにつくか決めて?」

でもきっと後悔するよ、君は。今日この場でこっちにつかなかった事を」



突如、風が巻き上がって彼の姿を隠す。


砂埃が視界を塞ぎ、ほんの一瞬だけ何も見えなくなった。


次に視界が開けるとそこには彼の姿は無かった。



「戻ろ、茅野ちゃん」

「うん」



結局、分からずじまいって事……だね。


私は落胆を隠せなかった。


簡単に秘密を話してもらえるとも思ってなかった。


けど、そんな曖昧なまま放っておく事程酷な事はない。



月夜を眺めても、自分の心は後ろの闇のように黒く、黒く染まっているような気がしてならない。


この闇は晴れるのかな?



「帰ろっか」

「ああ……」