妖しの姫と天才剣士




畳んでいた布団に背中を預けると軽く目を閉じる。


仮眠は重要だよね。眠気で十分に動けずに死ぬのなんてごめんだ。






『お母さんっ! お母さんっ! 私を置いて行かないでぇっ!』



手を伸ばしても、私の先に見える女性の陰には届かないっ。


地面が崩れ去るような錯覚に陥るがまま、私は宙へと投げ出される。



「はぁ、はぁ、はぁっ!」



嫌な夢を見た。


最近はぱったりと見なくなっていた筈の夢。


お母さんに置いて行かれる夢。


顔なんて覚えてないのに夢で見るそれはやけにはっきりしていた。


もう夜は更けていて、高い位置に月が上がっている。


やばい。



「寝過ごした」



私は急いで刀を差すと待ち合わせの門へと向かう。



「総司」

「……遅かったね。茅野ちゃん」



ニコッと笑う顔。


普通にしている総司に足が止まる。



「どうした?」

「何でもない」



気にしてないのかな?


一応、あれは初めてだったんだけど。


狼狽えていたのは私だけ? 口を塞いで黙らせるだけで特別な意味なんてないの?


なんか、馬鹿馬鹿しくなってきたぞ? 私が。


なんて思いながら歩いていると。



「……あの時はごめん。嫌、だったでしょ?」



唐突にそう言われた。あの時とはつまり口づけの事で……。