妖しの姫と天才剣士




今の私にこの場所を捨てられるの?


抵抗もなく、いつものように影と化して。


心を殺して、落ち着く場所を捨てて、私はいきていけるの?


……考えてもそれは出来そうにない。


でも。いくら考えても名案は浮かばない。


私に、一体何が出来るというの?


日も暮れてきて私は屯所へと戻った。


これ以上遅れたらきっと土方さんに何か言われる。


今、長い説教を受ける気にはどうしてもなれない。


また、静かになる場所は自分の部屋だけ。


そこには人なんて寄り付かないから。


一人でゆっくり考える為に誰にも会わずに部屋に行こうとした、でも。



「 茅野、遅かったな」



一番会いたくなかった土方さんに出くわす。



「…………そうですか?」



まだ手に持って、握りしめていた手紙をサッと隠す。


この手紙だけは絶対に譲れない。


中身を見られるわけにはいかない。


そうしたら逆に怪しまれた。



「おい、茅野一体何を隠した?」

「隠してませんけど?」

「いや、隠したろ」

「いいえ」

「見せろ」

「嫌です」

「……良いから貸せっ!」



ササっと攻防を繰り広げたのはほんの少しで。

土方さんは隠したのに遠慮なくすぐに取られた。


その内容をざっと読んだらしい土方さんは私を睨んだ。


冷や汗が流れ出す私。……悪い事したの、私?


いやいや、違うよねぇ。



「これはどういう事だ。茅野」



ああ。


隠したままでいれたら良かったのに。


悪運だけは強いらしい。