「え、あ、ちょ」
「行くんでしょ」
私は抱き上げられたまま部屋を出、普通の着物を着た佳鈴さんに見送られると余計いたたまれなくなった。
「よいしょっと」
人気のない場所で降ろされるとようやく自分の足で歩くことができる……かと思いきや。
「あれ?」
ぺたんと膝から崩れ落ちて立ち上がれない。
力が入らないんだけど……。
涙目で見上げると困ったような顔で総司は背中を見せた。
「仕方ないなぁ」
乗れってことなのかな。
おとなしく背中に乗っかると総司は立ち上がった。
いつもよりも高い視点に心を躍らせながら随分と高い位置に上がった朝日を見上げる。
すると、朝の見回りの当番らしい六番隊の源さんやその他の隊士の姿がある。
朝日を受け、浅葱色の羽織を着た彼らはなんだかとても眩しい。
「ねぇ、総司」
「新撰組って……格好いいね」
「何を今更」
そう言って彼は笑う。
私も、そして総司もあの新撰組の中で生きているんだ。
誠の字を背負ったあの集団で。
この先どうなるかなんて私には皆目検討もつかない。
けど、確かに言えるのは。
私は、彼と、彼らと。
この時代をこの場所で生きていくっていうこと。
私はこの天才剣士沖田総司と生きていく。
––––妖しの姫と天才剣士 完––––