「はぁ……」

「何をため息ついておるのです? とってもお綺麗な姿だと思うのですけれどね」



同じように稽古姿の佳鈴はクスクスと笑みをこぼしている。


廊下を歩くのですら袴でないせいで歩きづらい。


通りかかるお客さんらしき人に佳鈴と同じように笑みを返すがぎこちなくなっている。


でも、通り過ぎていったお客さんが頰を赤らめていたのは気のせいだろうか?


まぁ、気のせいじゃなかったとしても佳鈴の笑顔でやられたに決まっている。



「失礼しやす」

「し、失礼……しやす……」


襖を開くとそこにはお酒で出来上がっている永倉さんの姿が。



「おお、佳鈴。どう……」



佳鈴に声をかけた土方さんは私を見ると手からお猪口がこぼれ落ちた。



「お前がか? ……茅野」

「ええ。それがなんですか」



冷めた目で見ると納得するように頷いた。



「お、お前がか⁉︎ 沙雪!」



藤堂くんが駆け寄ってくるとペタペタと頰に伸ばした––––ところで橋にその手を弾かれた。



「って! なんなんだよ、総司!」

「……僕のさゆに触れさせるわけないだろ?」



酷く低音の総司の声にビクッと肩が震える。



「おいで? さゆ」



小首を傾げて手を差し出した総司に導かれるようにして私は近づいていく。


コロコロ笑う佳鈴は「愛されているのですなぁ〜」という。


その言葉で赤くなった顔を見られないように俯く。


総司の手の届く範囲に近づくとぐっと引き寄せられる。



「おいこら! 独り占めは許さないぞ!」

「……なんで」

「俺だって酌をしてもらいてぇからな」



永倉さんの言葉に、見せつけるように総司はさらに私を強く抱きしめた。



「『僕の』だから。君らに渡すわけないじゃん」



敵対心むき出しの総司に苦笑をこぼしながら土方さんは酒を飲む。



「そこまで独占欲を見せびらかすんじゃんぇよ。

一応、公然の場だ。それに」



土方さんの視線の先を見ると呆然とした顔の芸妓さんの姿が。



「一人の女にかまけてばっかじゃ、ちと可哀想じゃねぇか?」



みるみる赤くなっていく顔を隠すように火照った顔を総司の肩口に沈めた。