「でもさ、総司ってなんでこんな奴を好きになったんだ?」
左之さんはお猪口の酒をぐびっと飲みながらそう言った。
「なんで、ですか?」
「ああ。茅野には悪りぃがそこまで女っ気はねぇぜ?
俺は女として意識したこともなかったんだが」
ここの芸妓さんの方が、美人だと思うけどな。
左之さんの言葉が何気なく胸に深く突き刺さった。
確かに、私には女としての魅了は皆無だけれども、皆無だけれども!
そうはっきり言われると傷つく自分がいた。
「そうですか? 僕は他の女なんてどーでもいいんですけど」
ちょっと総司? それはそれでひどいんじゃないのかな?
ここにいる人全員美人さんだよ? 私よりずっと綺麗だよ?
……でも、嬉しかったのは秘密。
言ったら食われるから絶対に言えないけど。
「ほぅ。この人可愛らしい旦那はんかと思いきやお嬢はんやったのですねぇ〜」
ぐっと顔を寄せられた芸妓さんに私は総司に抱きつくようにして距離を取る。
それでも伸ばされた手は拒めず、頰に触れられると肩が揺れた。
「顔の造形も綺麗で、肌もいい。これはいい素材です……」
私から離れたその芸妓さんはすり足で土方さんへと近づくと自然なそぶりで寄り添った。
その様がとても似合っていて、なんだか無性にイラついた。
中身鬼なのに! いいのは外見だけなのに!
「なぁ、土方はん。あのお嬢はんを立派な芸妓へと変えてみせますえ?」
酒に口をつけていた土方さんはその手を止める。
「……あいつをか?」
「はい、そうでやす」
「……そんなこと俺に聞くんじゃねぇ。本人に聞きやがれ」
無愛想な返事だったのにその芸妓さんはぱぁとその顔を輝かせた。
「ほな、行きましょう」
「え? あ、あの……!」
ふわりと手を取られるとそのまま座敷の外に。
「ではしばしの間、お暇しやす。お嬢はんは見事な芸妓に仕上げてみせますんで」
「わ、私! そんなことするつもりは––––」
「でわ〜」
障子を閉められると逃げ道はなかった。
そわそわしだした芸妓さんたちに囲まれながら、私は引きずられるようにして座敷から離されたのだった。
助けてよ! 総司!