ああ、出来ることならもう一度だけ……。
「呼んで……欲しかったな……」
総司に私の名前を。
考えていた時間はきっと一秒にも満たない。
でも、その短い時間にも牙は確実に私へと迫っていて。
「茅野!」
噛みつかれる直前、私の事を呼ぶ土方さんの声が聞こえた気がした。
そしてその直後、妖は何かに引き千切られるように消し飛んだ。
「ぇ?」
その言葉を呟いた瞬間、膝から崩れ落ちた。
「茅野、おい茅野!」
「ひ、じかた……さん……!」
あれは幻聴じゃなかった。妖を消したのは土方さんだ!
見上げた先に居る土方さんの袴の裾を掴む。
私が今一番伝えたい事を伝えるために。
「そ、う……じを、助けてっ。奥に……っ」
「総司がか⁉︎ ……だがテメェの方が先––––」
「私の事なんてどうでもいいんですっ!」
喉が痛む。息が出来なくなるけど、そんなのどうでもいい。
「だから、総司を……」
「……分かった。待ってろ。あいつは奥に居るんだろ?」
こくりと頷く事さえ私には残っていない。
でも、ちゃんと理解してくれた。
ならもう大丈夫。総司は安全だ。