今度は左腕を貫かれるがそんなことどうでもよかった。
無理やり姫様を投げ飛ばす。
「がはっ!」
「見ていろ姫様。……いや、沙雪。お前の最愛の人が、『沖田総司』が死ぬ瞬間を」
自然と頬が緩んでいく。
今まで、「肉塊」に返す行為にこんな気持ちを持ったことは無かった。
振り上げた切っ先に月の光が反射する。
『ソ……う、じ…………」
!!
虚ろだった瞳に光が宿し出しているのを見て己の策は失敗したのだと悟る。
『沖田総司』という言葉が沙雪の自我を呼び起こしてしまった。
そこまであいつへの思いは強いというのか!?
「総司が殺されるなんて……そんなことはさせない!」
金色の瞳のままの沙雪は突っ込んでくる。
今さっきと運動能力に対した差はない。
もう無理だ。
「くそっ」
最後の最後でしくじるなんて。
頭領としての威厳がズタズタに割かれるのを感じながら窓から飛び出し裏手に着地した。
いつもより体が重く感じる。そのせいか、いつもはつかない膝を着いてしまった。
「な、何者!?」
刀を振り上げてきた新選組の隊士らしき奴を一振りで斬り伏せる。
胸の中に燻って沈み落ちた苛立ちが人を斬っても収まらない。
「おい、柚乃、伊月! 撤退するぞ」
「承知」
「……了解しました」
戻ってきた二人の姿を確認する。
立ちふさがる奴は確実に斬り伏せながら池田屋を離れた。
「新選組、か」
最初は幕府の狗だと高をくくっていたがそう一筋縄ではいかない奴ばかりらしいな。
茅野沙雪----。姫様の力だけは絶対に手に入れる。
そして、
沖田総司----。あいつだけは必ず殺してみせる。
この俺の威厳にかけて。