妖しの姫と天才剣士




少し走っただけでもじっとりと汗が滲む。


さすがもう夏だ。


羽織を羽織っているのも原因の一つだろうけど。


山崎さんの速さについて行きながら、山崎さんとは途中で別れる事になった。


私が近藤さんたちの方、山崎さんが土方さんたちの方へと向かうから。



「ここから先の道は分かるな」



山崎さんからそう確認される。


池田屋までの道。碁盤の目みたいな道だから迷いはしない筈。


それにその前の通りは何度も巡察で通ったことがあるから。


つい先日迷ったばかりなのに変な自信だな。


ここで迷ったら、相当恥ずかしい事になる。


なんて自分で考えながら速度を緩めた山崎さんに倣って止まる。



「はい。大丈夫です」



そう答える。山崎さんに心配かける訳にはいかない。



「では。……頼んだぞ」


最後の言葉に心の中で力強く頷く。


速度を上げた山崎さんを見送りながら私も再び走り出した。


羽織りを着た姿で一人走っているのは人目を引くけれどそんなの気にしてらんない。


早く、ほんの少しだけも早く池田屋に付かないと……!


長い髪の毛が横に揺れる。


顎を伝い落ちる汗を拭いながら、私は必死に走り続けた。