「そんなに新選組を甘く見んじゃねぇ。
血なんかに頼らなきゃいけねぇほど落ちぶれちゃいねぇよ」
一歩引いた所にいた土方さんが剣先を彼へと向けた。
細められた瞳からは怒りしか感じない。
「ふむ。そんなに彼女が大切か。なら正攻法では奪い取れないな。
仕方ない。少々卑怯ではあるがあの手を使わねばいけない」
「何ボソボソ言ってやがる!」
土方さんには聞こえてないみたいだけど、私にはハッキリ聞こえた。
彼はどんな手を使うつもりなの。
私をどうやって新選組から引き剥がすつもり?
パチン、と響き渡るように指が鳴らされた。
それと同時に少しの圧迫感が取れた気がする。
「結界が解かれました」
山崎さんが呟いた言葉。それに同意するように彼は口角を上げた。
「さぁ、君たちはどうやって姫様を守るのかな?
高見の見物を洒落込もう」
「ああ、そうだったね。僕の名前は神下 真響。覚えておけ……とは言わないよ。
死ぬ人間にも最低限の礼儀は尽くさないと、ね」
「ま、待って!」
彼らは夜の闇に姿を消した。
しばらくは刀を構えたままだった二人も刀を収める。
歩き出そうとした私たちの行く手を雷狼が止めた。
そして私たちを囲むように四匹の妖は並ぶ。
土方さんたちの命令じゃないみたいで、全員が目を丸くしていた。
もちろん私も。
話しかけようとした土方さんだったけど、その口はすぐに閉じられた。
その理由は分かる。
妖全員が警戒心剥き出しだったからだ。
また、何か来るの?
体を強張らせた私の耳に届いたのは四方からくる動物のような足音。
まさか–––––––––っ!
草を掻き分けて現れたのは。
妖の大群。