妖しの姫と天才剣士




「う…………」



何かに酔ったように奴の体勢が崩れる。


よろけた。ここで一気に畳み掛ければいけるっ!


奴が離れた事によって出来た距離を一気に詰める。


そのままの勢いで刀を突き刺した。


奴の顔が目前に迫って、その顔に動揺を隠せない。


何で……笑える?


殺されかけていると言うのに。


それは俺に驚きしか与えなかった。


だって、殺されかけて笑う、笑える奴なんて知らない。


憎しみに満ちたような目しか、俺は知らない。



「君には妬けちゃうなぁ〜。

一緒に紅雪を堕とそう?

沖田総司くん?」


体を突き抜ける独特の感触と共にドサリと音を立てて落ちた奴。


どういう事……だよ。


茅野ちゃんを堕とすって。


俺は黙って倒れた奴に貼り付けられた呪符を剥がす。


体に……まだ違和感はない。


最後の悪足掻きか?


どうやら無駄な事だったようだけど。


ただただ感情すら籠らない視線で俺は奴を見下ろした。


憎くて、許せない。こいつの事を。


出来るだけ無感情に。