妖しの姫と天才剣士




牙が皮膚にくっ付いたのが分かる。


妖の生臭い息。


獣みたいだなぁって。


こんな妖に襲われたんだ。五歳の私も。


恐怖で動けなくて、奥にいる赤目の人が笑っているのも怖くて。


今、その恐怖が戻ってきた。


動けない––––動かない。


私はもう殺されるのを待つだけになっていた。


走馬灯のように思い出した故郷の事が浮かんでくる。





ごめんなさい。


由羅との約束の前に私は死ぬ。




総司、副長、新選組の皆が浮かんで––––。


初めて頬を伝う涙を自覚した。



「……ない」



死ねない。


私はこんな所で死ぬ訳にはいかない。


だって、約束したから。




『逃げない』って。









「があぁぁあっ!」



手に力を込めて牙を刀で弾く。


まだ、倒れる訳にはいかないっ!


だって。


だって、総司と約束したから!