「じゃあ琥汰。桜菜ちゃんに部屋案内してあげて。由紀子さんはこっちの部屋を使ってください」



親父が俺に言った。
桜菜の方を見ると、うつむいている。



「……桜菜、部屋こっち」



桜菜の荷物を持つと、俺は階段をのぼる。
桜菜も無言で俺のあとをついてくる。



「この部屋、桜菜用だから」



もともと、母親の部屋だったこの部屋。
昨日、親父に言われて片づけた。
ベッドの上に荷物を置く。



桜菜はなにを考えているのか、ずっと下を向いたままだ。



「桜菜、どうしたんだよ」



「あーっ! もう、イヤだ!」



急に顔をあげたかと思うと、大声で言った。



「なんで……よりにもよって林なの……」



「そ、それはこっちのセリフ! つか、親父たちに言えよ! 俺だって、さっきまでお前の母親が相手だなんて知らなかったし……」



俺もいろんな意味で、お前の母親じゃない方がよかったし。



「今朝、あんなこと聞いてきたのって、こういうことだったんだね」



「お前こそ、表情が暗かったのってこれが原因だったんだな」



お互い、再婚への不安があるんだ。
桜菜も同じ気持ちだったんだな。