向かった先は、空き教室。


「こんなとこに、教室があったなんて知らなかったよ…」


図書室の近くなんだけど、この階で図書室以外の部屋に入ったことがなかった。


「この学校がもっと人数がいた頃に使われていた教室だって。

今は、知ってる人も少ないみたい。

寒いしね…」


小夜ちゃんが適当な机に座って、お弁当を広げだした。


「なんでも知ってるんだね!」


本当に感心してしまう。

「まぁ…ね…」


悲しそうな笑い顔に見えたのは気のせい?


ゴソゴソ…

あたしたちがあれこれ話している中で、お兄さんは教壇の中から何かを引っ張り出してきた。


コンセントを差し込むと…


「暖かい…」


なんでこんなところにあるのか、電気ストーブ。


「保健室に壊れてた電気ストーブがあって。

捨ててきますって、兄貴がここに持って来て直して使ってるの」


「じゃ、ここって…」

「そっ!

兄貴の隠れ場所!

教室にいないとき、ここに隠れてたの。

探すのに苦労したわ…」


椅子を持って来て、あたしたちのところに座ったお兄さん。

特に悪びれた様子はない。


「美雨、クッキーまだ?」


「えっ?

お兄さん、お弁当は?」


「昼ごはん食べないから」



昼ごはん食べないの?


なんで??


お腹空かないの?


それ以上何も言わないお兄さんに、小夜ちゃんが教えてくれた。



「お弁当持ってはくるんだけど、朝食べちゃうんだよね…

教室でお弁当食べるの嫌なんだって…」


そこまで面倒見られないよと言わんばかりに、首を振りながら卵焼きを口に入れた。


あっ、一人だから…

そりゃ、一人のお弁当、美味しくないよね…

でも…


「身体によくありません。

お昼ご飯もしっかり食べないと、大きくなれませんよ?」


あたしなんて、食べてるのにちっとも大きくなれない。


「これ以上、大きくならなくていいし…」


そーだった…


お兄さん、背が高かったんだ…

うらやましい…



「早く!クッキー!!」

あっ、そーだ!


ゴソゴソと袋を取り出すと、机の真ん中に広げた。

今日は、小夜ちゃんリクエストのアールグレイクッキーと新作のイチゴジャムクッキー。

ジャムまで手作りしちゃった、気合いの一品。


ん〜

いい香り…

今すぐにでも食べたいけど、まだお弁当も食べてないもんね…

試作品いっぱい食べたのに…


「わぁ!

美味しそう!!

美雨のクッキーの中でアールグレイが一番好き!」


小夜ちゃんが一番に手をのばして口に入れた。