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いよいよ3時間目が終わった。


うー…

緊張してきた…

でも、小夜ちゃんとお兄さんのため!


「これ、お願いね!

いってきます!」


小夜ちゃんに音楽の教科書など必要なものを預けて、2年生の教室に急いで向かう。


体操服を抱えてすれ違う先輩たちは、きっとお兄さんと同じクラスの人だよね…


もしかしたらと言う期待も込めて、一人ずつ確認するけど、長髪・メガネ・マスクは見当たらない…


体操服を抱えている人たちが見当たらなくなった。


すれ違わなかっただけで、きっと体育館に向かってるよね?

毎回サボってるわけじゃなさそうだし…

教室の前につき、静まり返っている教室を覗き込んだ。



いないよね… いないよね…


…いた……。



いちゃダメじゃない!!


お兄さんは、肩肘をつき窓の外を眺めていた。


「お、お兄さん!!

次の時間は体育ですよ?」


ドアのとこから、大きな声で呼びかける。


あたしの声にびっくりしたか様子で、コッチを振り向いた。


「…美雨? なんでここに?」


ズンズンとお兄さんに近付きながら


「小夜ちゃんの代理できました。

体育、これ以上サボると留年しちゃいます」


「留年したら、小夜と美雨と一緒になれるからいいよ…」


意地悪な顔で見てくる。


わぁ…

ホントに留年してもいいって思ってるんだ…


同じ勉強もう一年やらなきゃいけないって嫌じゃないのかなぁ?


いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった!



ブルブルと顔を振って



「体操服どこですか?

体育館まで一緒に行きますから!」


袖口をクイクイッと引っ張る。


「あぁ、忘れたんだよね…」


かわいく、とぼける。


「ロッカーの中ですよね?」


小夜ちゃんから、聞いてますから!

勝手に開けていいって許可をもらってるから…


進藤… 進藤…

あっ、ここだ!


失礼します…


ガチャン…


綺麗に整頓された中に、体操服が畳んで置かれていた。


2年生はだから、もっと汚れていてもいいはずなのに、あたしのと変わらないくらいの綺麗…

ホントに体育出てないんだ…



「体育キライじゃないんだけど、着替えるのがメンドイんだよね…」


「わぁ?!」


急に顔の横から声がして、心臓が止まるかと思ったよ!!


「美雨が、一緒に行こうって言ったのに…」

シュンとその場にしゃがみ込んでしまう。


「ごめんなさい、ごめんなさい!

体操服を持ちますから、一緒に体育館行きましょ?」


ジャジャンとお兄さんの顔の前に体育服を出して、ニッコリ笑ってみた。


機嫌を損ねたら、ダメって言われてたんだぁ…


「うーん…」


あ、マズイ…


「えっと、えっと…

あっ、あたし今日クッキー作って来たんです。

体育出てくれたら、それあげますから!」


小夜ちゃんと食べる約束してたけど、許してくれるよね…


「クッキー好きじゃない…」



えぇ〜?!

世の中にクッキー嫌いな人っているんだ?!

バタークッキーも、チョコチップクッキーも、イチゴクッキーも、どれも美味しいのに?!


「お、お兄さん?

それ、ホントですか?」


「うん… 口がモサモサってなるのがイヤ…」



えぇ?!

あれがいいんじゃないの?!

それを大好きなココアと一緒に…

考えただけでヨダレが…



ショックで言葉が出ないってこんな感じなんだろうなぁ…

ポカンと口を開けて、お兄さんを見てたんだと思う。


「美雨、バカな顔してるよ?」


かぁぁ…

バカな顔って…

確かに否定はできませんけど、そんな面と向かって…


返す言葉も見つからず…


「かわいいから、いいけど!

じゃ行こっか?」







え?!


かわいい?

あたしが?



いやいや、そこじゃなくて


行くってどこに?!


トコトコ歩いていく背中を見送っていると


「体育館までついて来てくれるんでしょう?

早くしないと遅れるよ?」


あっ?!

体育だ!!


そんなことも忘れちゃうなんて、どんだけクッキーが好きなんだ…


「行きます!

お供させてください!!」



もう教室を出てるお兄さんを、体操服を抱えて追いかけた。