「大丈夫だったよ…

お兄さんに、昔の話、聞かせてもらったよ。

ごめんね。あたし、何も知らなくて…

小夜ちゃんにもお兄さんにも、何もしてあげられなかった…」


うちにも犬がいた。

死んでしまったときには、どれだけ泣いても涙が止まることはなかった。

小学生のときだったから、泣き疲れて眠ってしまったんだ…


「美雨は、私とお兄ちゃんの救世主だよ。

いてくれなかったら、私はずっと一人だったし、お兄ちゃんとのわだかまりもなくならなかった。

持久走後から、また前みたいに仲良くできてるんだ。この何年か家で話すことなんてなかったから。

お兄ちゃんもそうだよ。

美雨がお弁当を作ってくれなかったら、今頃進級できてたかわからないし、持久走大会だって入賞なんてできなかった。

話せなくてごめん。

話してしまったら、美雨が離れていきそうで怖かった」


小夜ちゃんから離れるなんて出来るわけないのに…


「離れるわけないじゃない!

あたしたち、友達でしょ?

友達は大切にするものなんでしょ?」


「美雨…

覚えててくれたんだ。

そーだよね!

ごめん、疑ってて。

もう、隠さないから!


私ね、結婚するの!」



「…はい?」


友達を大切にするって、話だったよね…?

結婚ってどこから出てきたの?

ポッカ〜ン

口を半開きにして、かなりマヌケな顔。

放心状態で何も言えない。

そんな私を見て、笑いながら


「ずっと付き合ってる人がいてね。

16歳になったら、結婚するって約束してたんだ」


付き合ってる人?


バレーで、ほとんどの時間潰れてたはず。

電話もメールもしてるとこ見たことないけど…


壊れたように首を右に〜左に〜フラフラさせる。


「遠距離で、なかなか時間が合わなくて。

それでも、ずっと続いたのは愛の力!

あっ、もう行かなきゃ!

あとお願い!」


「えっ?!

行くってどこに?」


「言ってなかった?

今日、試合なの!

お兄ちゃんのことよろしくね!」


バタバタと荷物を持つと、去っていった。


あれ、これどこかで…


あっ、昨日のご両親だ…

こんなとこまで似るんだ…


寝不足のせいか、変なテンションで、笑いが止まらなくなって、お兄さんを起こさないように声を殺して笑い続けた。