冷蔵庫の中を確認するふりをして、沸騰する頭と顔を冷やしていると…


「あぁ、美雨?

何してるの?」




突然、後ろから声をかけられて別の意味で心臓がドキッとした。


「し、シドさん…?」


「ん? どーした?」


ふぁ〜っとあくびをして、大きく身体を伸ばした。




「あっ… いや、あの…

さっきの… 覚えてますか?」



「さっきの?」

ん?と何のことかサッパリわからない顔をしてる…

やっぱり寝ぼけてたんだ…


「なんでもないです…」



「そーなの?

今日、何作るか決まってるの?」



「まだなんです。

お兄さんに聞こうと思って、部屋に伺おうかと思ったんですけど…」



「部屋、行ったの?!」


急に真剣な顔であたしを見つめる。


「あっ、いや…

伺おうかとしたんですけど、寝てたら迷惑になるかと思ってやめました」


はぁ…

シドさんから一気に力が抜けた感じがしたけど、なんで?


「どーしたんですか?」


シドさんが慌てるなんて珍しいから。


「あっ、寝るから起こさないでって言ってたから…」


髪を指でクルクルしながら、微笑んでる。

物音がしなかったから、やっぱり寝てたんだ。


ノックしなくてよかった!


「あっ、あとコロッケ食べたいって言ってたよ。

肉多めのやつ!」


コロッケかぁ…


コロッケって、面倒くさそうに見えて案外簡単なんだよね。

それなら作れる!


「ありがとうございます。

今日はコロッケにします」



「えっ?

作れるの?」


「はい!

簡単なんですよ?」


「そーなんだ!

材料足りる?」


あっ、材料確認しなきゃ!


冷蔵庫、あたしを冷やすのに使ってただけだったから何も見てなかった。


ひき肉、卵…

常備野菜のとこに、じゃがいもと玉ねぎあったし…


あっ…



「牛乳ないですね…」


「あっ、ワリー、さっき飲んじまった!」


親戚なのに、本当に自分ちみたいに使ってるんだね。



「大丈夫です!

小夜ちゃんが後で、買い物連れて行ってくれますから」


「じゃ、オレと行こうよ!

そうと決まれば、行こう!」


あたしの手首を掴み歩き出した。


「小夜ちゃんが…」


「いいって!

メール送っとくから」


引っ張られるように連れてこられた玄関で靴を履いてる。


強引だなぁ…


「早く!」


また、手首を掴まれ歩き出した。


外の風は冷たくて…


「コート、必要だったなぁ…」


「そーですね…」


3月の終わりとは言え、夕方はまだまだ寒い。


小夜ちゃんの部屋にコート置いてきちゃったから。

シドさんったら、すぐに動くから。

思ったら直ぐ行動のシドさんを思い出したらなんだか笑えてきた。


「美雨、どーした?

寒くて頭おかしくなったか?」


「ふふっ。

シドさん、コートも忘れるくらいの直ぐ行動のところを思い出して」


「そのとき思ったことを大切にしたいからね」


「とってもステキです」


なかなか思ったことを直ぐに行動には移せない。


「どーも!

で、寒くない?」


「ギリ、大丈夫です」



すると手首が掴まれたままだったのが離されて、手を握られた。


「冷たいじゃん!

わぁ…

ゴメン!焦りすぎた」


スポッ


握ったままの手が、パーカーのポケットに入れられた。


「ちょっとは、あったかい?

スーパー行ったら、暖かい飲み物買おうなっ」


手をギュッと握りしめるられる。


ボンッ!

効果音が付くんじゃないかってくらい、身体中の温度が上がるのを感じた。


シドさんって、スキンシップが激しいよね…

かっこいいから、こーゆーの慣れてるのかもしれない…

でも、でも、あたしにはちょっと刺激が強めです。