お兄さんに指定された日。

小夜ちゃんの部活帰りに、一緒にお家にやってきた。

あの一件以来、一人で電車に乗るのが怖くなっていたから、小夜ちゃんと一緒に行けることが嬉しかった。

春休みで、しかも2時を回った時間。

とっても空いていて、席に座れてあたしの不安はなくなった。

このことは、小夜ちゃんにも話していない。心配をかけるのがイヤだから。


知らないはずなのに、人が動くとさりげなく、あたしの手や肩に触れてくれた。

私がいるから大丈夫って伝わってきた。



*******


「ただいま!!」


2回目とは言え、この広いお家には慣れなくれキョロキョロしちゃうよね…



花が変わってる…

造花なわけないもんね。


前は、冬っぽかったのに。


今日のは、とても春らしい花の色が鮮やかでポカポカした気持ちになる。


「美雨、シャワー浴びてくるから、先、部屋に荷物置いてきてよ。

夜ご飯、冷蔵庫のもの使っていいから。

足りない物あったら、一緒に買いに行くからチェックしておいて!」


「わかった。

部屋に行かせてもらうね」

階段を上がり、小夜ちゃんの部屋の隅に荷物を置かせてもらう。

友達の家にお泊まりなんて何年振りだろ…


白を基調とした清潔感のある部屋。


今日は何作ろうかなぁ。

日にちを決めるとき、お兄さんに聞いたけど何でもいいって言ってたけど、それが一番困るんだよね…


お兄さん、部屋にいるかなぁ?

今日の気分で、食べたいものあったら聞こうかなぁ…?


恐る恐る部屋の前に立って、様子を伺ってみたけど、物音がしない。

寝てたら迷惑だし…

後で小夜ちゃんに聞いてもらおう…


冷蔵庫の材料チェックしとかなきゃ!

レパートリーもそんなないけど、作れるものなら作ってあげたいし。


階段を下りながら、そんなことを考えてた。

リビングから、キッチンに向かおうとすると


ソファーに人影…


あれ…

見たことある…


近付いて行くと、シドさんだった。


ホント、この人何者なんだろ?

親戚でも、人の家のソファーでこんな寝られるもの?


それにしても、キレイな顔だなぁ。


まつ毛ながっ!

お肌のキメも細かくて…


知らず知らずのうちに、その顔に吸い込まれるように近付いていた。



ガバッ



えっ…


急に身体が引き寄せられて…


シドさんの上?!


かぁぁぁ!!


身体中が恥ずかしさで熱くなる。


「シ、シドさん…」


声をかけてみるけど、寝息がスースーと
耳元で聞こえる。


何、なんなの、この状態…


離れようにも、腕をしっかり背中に回されていて動けないよ…


「シドさん、シドさん!

起きてください! 離してください!」


「ん…」


色っぽく返事をしてくれたのかと思ったら、寝返りを打って、横に倒れた。


あたしの顔のすぐ前には、シドさんの顔…


「ん…

あっ… 美雨… 来てくれたんだ…

積極的だなぁ… お楽しみは夜って決まってるのに…」


積極的?!



あたしが抱き付いたと思ってる?!



もしかして、寝ぼけてるの??



「ち、ちが…」


『違います』


そう言おうと思ったのに、言えなかったのは…

あたしの唇に、シドさんの唇が触れたから…


優しく触れていた唇が離れて、放心状態。



今、キス… しちゃったんだよね…?


な、なんで…?





パニックになりながら、シドさんに目を向けると



「スー… スー…」


えっ…


やっぱり寝てる…の?






さっきまで力が入っていたはずの腕の力がスッと緩められたのを感じて後ろに下がったら…



ドーーン!


「イッタァ…」


そうだった…


ソファーの上だった…





なんなの、なんなの、なんなの?!


訳がわかんない!!


ズルズルと後ずさりをして、逃げるようにキッチンに向かった。