グランドから離れて校舎脇の木陰に座り込んだ。


2年間、何もしてなかったのにやれるもんだな…


これも、美雨のおかげなのか…?


メガネもマスクも取り、乱れた長い髪を一つに束ねた。

首にこもっていた熱が、さっと流れるように取れていった。


汗が止まらない…

タオル、教室だなぁ…

走るの久しぶり過ぎて、汗かくことも忘れてた…



「風邪ひくよ…」


小さな声が聞こえて、そっちを向くと


「小夜…」


「タオル…

用意してなかったんでしょ?」


使い込まれたスポーツブランドのタオルを差し出された。

「これ、お気に入りだったでしょ?」


懐かしい…

サッカー部のとき、よく使ってたヤツだ。

まだあったんだ…


「おぅ… ありがと」


「7位、おめでとう!」

「聞いたのか?」

「ううん、見てた…」


「見てた?

小夜は、何位だったんだ?」

「3位!」



陸上部もいるし、他にも長距離得意な人がいるっていってなかったか?


驚いて小夜の顔を見ると…


泣いて…いたのか…?


目が赤くなっている…


3位が嬉しかったんだ…


「おめで…」

「お兄ちゃん、ごめんね」

おめでとうの言葉をさえぎって、大きく頭を下げた小夜。


「お兄ちゃんが、こーなってしまったのは、私のせいだって気付いたの。

私が理想のお兄ちゃんでいて欲しくて、知らないうちにプレッシャーをかけていたんだって。

お兄ちゃん、優しいからそれに応えようとして…」


「小夜?

何を言ってるんだ?

とにかく座って、涙を拭け」


小夜の手を引っ張って、隣に座らせた。


ヒック、ヒクッ…

肩を跳ね上げながら、タオルでゴシゴシと涙をこすった。


「お兄ちゃんが、変わっちゃったのはずっとボタンが死んだせいだって思ってた。
なんであの日に死んじゃったんだろうって、ボタンのこと恨んだりもした。

でも、そうじゃなかった。

お兄ちゃんは、変わったんじゃなくて、元に戻ったんだって。

私がそんなこと望まなかったら、お兄ちゃんは暗くて引きこもりなどーしようもない人だった。

私が無理やり、理想の姿にしちゃってたんだね…」


「…

ちょっと待て、小夜…」

「ごめんね。

もう、私、何も望まないよ。

お兄ちゃんは、無理しなくていいから」


「待てって!」

オレの声が聞こえてないのか?

少し強めの声で、小夜を制した。


勝手に話を進めていかないでくれ…