【小夜side】
ハーフ地点。
「1年D組一番ね!」
ニコニコと笑う先生は、手にハンコを押してくれた。
大きく深呼吸して…
「順位は?」
「10位よ!」
「ありがとうございます」
10位かぁ…
思ったより、いい順位。
もう一度大きく深呼吸して、走り出した。
バレー部の中では、2番だ。
1番は、キャプテン。
陸上部に勧誘されてるくらいの人だから、これは仕方ない…
美雨、大丈夫かなぁ…
転んでなきゃいいけど…
兄貴、見かけなかったなぁ…
女子のハーフ地点までは、男女同じ道のり。
真面目に走ってるんだ…
今の兄貴からは、想像もつかないけど…
2年前の兄貴なら、それが当たり前だったのに…
サッカー部のキャプテンで、エースだったから…
ホントに、ホントに、10位以内で走ってくれるのかなぁ…
期待していいのかなぁ…
昔の、私の大好きだった兄貴に戻ってくれるって…
もしかしたら、私の方が早くゴールすれば兄貴のゴールが見られるかも…
兄貴の絶頂期から、どん底に落ちるところを見てきた。
どんなにキライになろうと思っても、無理だった…
だって兄貴は、私の憧れだったから。
その背中を追いかけているのが、楽しかった…
どん底にいる兄貴を見てるのは、本当に辛かった…
兄貴が高校に入ってしばらくして…
我慢できなくて一度だけ、前みたいに戻ってよって泣きながら頼んだことがあった。
「小夜の自慢の兄貴でなくなって、ゴメン…」
力なく笑う兄貴を見て、頭を鈍器で殴られた衝撃を受けた。
受験を失敗したから…
彼女に振られたから…
原因はそれだって思ってた。
でも、違ったんだ。
兄貴は、私の自慢の兄貴でいてくれるために頑張っていたんだ。
私が理想の兄貴を作り出して、それに合うようにしてくれていたんだ。
滑り止め受けるように勧められていたのに「お兄ちゃんなら、必要ないでしょ?」って言ったの誰?
彼女に向かって「お兄ちゃんに相応しい人でよかった」なんて言ったの誰?
「サッカー部で、キャプテンはお兄ちゃんしかいないよね」って言ったの誰?
全部、全部、私だ…
友達に自慢したくて、誰よりも幸せって思っていたかった。
背中を追いかけているだけのつもりだったのに、考える暇も与えないほどの力でドンドンと背中を押し続けてしまっていたんだ。
お兄ちゃんは、変ろうとしてる。
自分の力で這い上がろうとしてるんだ。
この一年、わかってたのに何も言えなくて…
ごめん、お兄ちゃん…
ゴメンなさい…
火照った頬に、冷たい涙が伝っていく。
謝らなきゃ…
今度は、お兄ちゃんが自分の思い描く自分になってくれるように…
流れる涙を手の甲でグイッと拭き、スピードをあげた。
ハーフまで来て、足も身体も重くなっていたはずなのに、身体中から力が湧いてきた。
お兄ちゃん、ゴールで待ってるから!
【小夜side 終】

