ほら見なさい!と勝ち誇った顔の小夜ちゃん。
怒るかなぁ…
ビクビクしながらお兄さんを見ると、怒るどころか、ニヤリと企んだ顔つきをした。
「じゃ、オレが10位以内に入ったら、オレの言うこと聞いて!
そーだなぁ…
美雨はうちに泊まりに来て、夜ご飯と朝ごはん作って!
それで… 夜は一緒に寝る!」
「バカじゃないの?!
なんで美雨ばっかり!」
「もちろん小夜にも言うこと聞いてもらうよ。
でも、それは当日までのお楽しみ!」
ニッコリと笑ってるけど、なんだか不気味で。
当日って…
後から言われるよりも、今言われたほうがよかったって思っちゃう…
小夜ちゃんも同じこと思ったみたいで
「なんで私だけ当日なの?
てか、一緒に寝るなんて、そんなこと美雨がいいって言っても私が許さないから!
私たちには、メリットないし!!」
バンッッ!!!
両手で机を叩いて、小夜ちゃんがお兄さんを鋭く睨みつけた。
あたしもビックリして肩が跳ね上がった。
いいなんて言わないよ…
でもお兄さんは平気な顔で
「もし、入れなかったら2人の言うことなんでも1つずつ聞くよ。
なんでもね…
10位以内なんてムリだって思ってるんでしょう?
だったら、いい条件じゃない?
美雨、どーする??」
楽しそうな顔であたしのこと見てる…
「美雨、のらなくていいから!
順位なんて関係ない!
とにかく参加すれば、最悪棄権だって問題ないんだから!」
「…でも…
去年148位だったオレが10位以内のとこ見たくない?」
今までのお茶らけた声とは変わって、落ち着いて真剣な低い声が響く。
空気が変わった…
小夜ちゃんも、その声に驚いたのか力が抜けたようにストンと座った。
「それは…
… それが本当なら…、見たいよ…」
下を向いてるから表情がわからないけど、震えたその声は今にも泣き出しそう。
絶対無理だと分かってるけど、それでも期待が捨てきれない気持ちを感じた。
小夜ちゃん、お兄さんのこと大好きなんだね…
でもね…
お兄さん、148位だよ?
休みの人を考えたら、ビリってことだよ?!
それを10位以内なんて、どー考えも無理だよ…
じっと小夜ちゃんのことを見つめていたお兄さんが、あたしを見た。
その目は、その顔は真剣だとわかる。
今、あたしが小夜ちゃんとお兄さんのためにできること。
それは、ただ一つ。
「お兄さん、わかりました。
本当に10位以内だったら、泊まりに行きます。
夜と朝ごはん作ります。
添い寝って約束なら、夜も一緒に寝てもいいです」
絶対10位以内はありえない。
小夜ちゃんの言う通り、陸上部だってあるし、他の部活でも足の速い人はたくさんいる。
それでも、小夜ちゃんが見たいと言うなら。
お兄さんが走ってくれるというなら…