出張の当日、可南子と想太は羽田空港で待ち合わせをした。

可南子は会社に寄ったために、待ち合わせの時間に少し遅れてしまった。
想太に先に搭乗手続きを済ませててねとLINEで送ったのだが、まだ待ち合わせの場所で待っていた。


「先に入っててよかったのに・・・」



「俺、可南子があと5分遅れたら帰るつもりだったから」


可南子は、呆れて大げさにため息をついた。


「ごめん、私が遅れたのが悪かった。
でも、帰るなんて、絶対にあり得ないからね。

だって、大事な仕事で行くんだから・・・」


可南子はそう言いながら、想太の背中を押して搭乗口へ向かった。


「可南子、俺、マジに行きたくないわ。
福岡に帰るって思うだけでじんましんが出そうになる。

あの時以来、帰ってないんだぜ。
ばあちゃんが死んでから・・・」


想太は、ずっと福岡へ帰ることを避けてきた。
福岡の街は、想太にとって辛い思い出が多すぎたから・・・