~慶喜~



土方歳三が好きだった


依里が言っていた




こんなに自然に依里の心に入り込める

土方歳三が羨ましい



依里は、俺を好きだと言ってくれた

俺は、信じている



だけど、なんだ……


この胸騒ぎ



依里が…



俺のそばからいなくなる



得体の知れない不安が押し寄せた


俺は、土方歳三という男が知りたい



「土方、少し話さないか?」





依里の部屋を出てから、土方と話す為に

空いた部屋に入る



「きゃあーーー!!誰か!!
医者を!!!依里様が!!!」



多津の悲鳴に、土方が素早く立ち

走る


遅れるが俺も、依里の部屋へ


「多津……何があった」


「依里様が… 急に……
頭を押さえて、苦しまれ
お水を差し上げようかと…
そしたら、依里様の手から落ちた湯呑みが割れ……そこに、依里様が手をついてしまわれて……申し訳ございません!!」

「ううううっ 頭が いったぁい」


俺が感じた不安は、これか?



「大丈夫だ!!しっかりしろ!!
おい!!多津…だったか?ここら辺を縛れ
それから、湯呑みの欠片が残ってないか見てくれ!!」


依里の左手は、血まみれ

止血の為、紐で縛らせたのだろう

怪我を多津に任せて、土方は頭を抑える

右手をのけ、依里の頭を擦る


「力抜け!!楽にしろ!!」


言いながら、背中を撫でたりする

クタリと土方にもたれながら

「痛いよぉ」

何度も呟き、涙を流す


怪我をした左手なんて、少しも気にしていない

それほどの頭痛が依里を苦しめている



「医者は、まだか!!!」


狼狽えるしかない情けない俺


優は、こんな時どうしてやっていた?



医者が来る前に、頭痛はひいた


依里は、そのまま土方の懐で眠った


左手の治療が終わり、依里を横にしてから


多津が、深く頭を下げた


「申し訳ございません」


「多津、其方は良くしてくれている
今回は、頭痛が酷く依里自身も
平静でなかった
子も無事なようだ
気に病まず、いつも通りにしてくれ
其方しか、頼れる者がおらん
よろしく頼むぞ」



依里の方に目をやると

土方が、心配気な様子で、依里の頭をまだ撫でていた


土方のように、行動力のある男に

勝てる自信がない


もうすぐ産まれる子に、笑われるだろう


しっかりせねばな……