~土方歳三~



警護の後、皆に先に帰ってもらい

慶喜様と依里の所へ


「歳三!!ここに座って!!」


足音が床に響く感じで、誰が来たかわかる
大した特技だな

「歳三~ ここって言ってるでしょ!!」

座った場所が少し遠かったらしい

依里の方にズリッと近づく


「私、一方的に喋るから」


だいたい、いつも一方的だろ…とか
思いつつも、思った以上に元気な依里に
安堵した


「どうしてなのかな?
私ね…優と子供の頃に一緒に過ごしたこと
忘れてて
薄情な妹だよね…
今ごろ、思い出してさ
優お姉ちゃんって、呼んでたんだよ」

「知ってる」

「聞こえぬぞ」


そうだった……と、思っているうちに


「歳三~そこから桜見えるでしょ?
私ね、桜大好きなの!!
優が私と遊んでくれたのも
寺に迎えに来たときも
兄と対面したり、東宮様に出会ったのも
桜のにおいがしてた
これ、歳三にあげる!」

出されたのは、桜の刺繍が入った

におい袋


これは、東宮様からの贈り物だろ…



「これ、多分…優が作ったんだよ
こんなに綺麗な刺繍で、しかも私の好きな桜!東宮様からってことにしたのよ
私が…優お姉ちゃんを忘れてたから
もう、忘れない
だから、優を歳三のそばにいさせて」



依里の手から、におい袋を受け取った


「歳三…… 産まれてくる女の子に
『優里』って名前つけたいの
良いかな?」


慶喜様を見る


「依里と考えた名前だ 良い名だろ」

「はい」

「なら、依里の掌に○を書いてくれ」


言われた通りに○を書くと

にっこり笑う


「ありがとう!!」


「慶喜様、依里に伝えて下さい
優は、依里をこれからも大好きだって…
優里を無事に産んでくれって」


慶喜様が依里の後ろから
掌に文字を書く

依里は、集中する


ゆっくり一文字づつ


「私だって、大好きだよ!!
任せて!!元気な子を産むわ!!」

慶喜様の前だけど、依里の頭をぐしゃぐしゃと撫でた


多津という女中が、入って来て


「あまり長くなると、依里様が疲れます」


もっと、話をしたかった




依里に、伝えなくちゃいけないことが

たくさんある




これだけは、伝えておこう




「慶喜様、依里に…
これからは、俺の妹でいてくれと…」



依里が弟から、妹にかわっても

大切な家族に違いない