この時ばかりは、彼の誠実さを、少しだけ恨んだ。 言わないでいてくれたら良かったのに。 嘘をついて、知らんぷりしていてくたら。 きっとそんなの彼には無理だ。 そう分かっていたから、千紗はあっさりと引き下がった。 「分かった、別れましょ……」 その時、泣いてすがらなかったのは、精一杯の強がりだった。 今思い返すと、恨み言の1つも言わなかった自分が悔しい。