「ああ、ごめん。藤永さんは、お仕事か。頑張ってね。いってらっしゃい」 矢嶋は、ドアに持たれながらひらひらと手を振った。 「……いっ、てきます」 思わず声が裏返ってしまう。 いってらっしゃい、なんて言われるの、久々かも。 それに、何あの、無防備な姿。 あんな甘い声で、反則だよ。 電車の中、心の声がだだ漏れないように、必死にニヤニヤする顔を抑えるのが精一杯だった。