◇ チャイムが鳴って、千紗が玄関から顔をのぞかせると。 今まで寝てたでしょ、と言いたくなるような、ぽやーっとした矢嶋が立っていた。 「おはようございます……」 声が、眠たくて眠たくて仕方ありません、と言ったようなホワホワした口調だった。 あっ。 思わず、そう口から漏れそうになる。 珍しく矢嶋はマスクをしていなかった。 初めて見る彼の顔に、少しだけ、ドキッとしてしまう。