♢ コーヒーを少し、口に運ぶ。 さっきから落ち着こうと、カップを手にしたり、手を握りしめたり。 それでもどうしても、気持ちは落ち着かなかった。 誰にも気づかれないように、小さく息を吐いた。 千紗は、スマホのボタンを押す。 時計は待ち合わせの時間を過ぎていた。 隣りにいた矢嶋は、珍しくずっと黙っていた。 時々、千紗と目が合うと微笑んではくれたけれど。 なぜ二人して喫茶店にいるのか。 それは一本の電話のせいだった。