♢ 「いやっ……」 千紗は立ち上がった瞬間、手元にあったグラスを床へ落としてしまった。 ガッシャーン。 その場にいたお客や店員の視線を、一気に集めてしまう。 相手の男は、眉を思いっきりしかめたまま、斎藤課長に向かって怒鳴った。 「君は部下をどう教育してんだ」 「すみません、お怪我はありまそんでしたか?」 斎藤課長が、千紗に「ここはいいから下がっていて」と目配せをする。 「失礼しました……」 千紗の声はか細くて、相手には届いていないようだった。