「そんなにカニ好き?」 矢嶋さんは、ボーッとしていた千紗の前に、顔をひょこっと覗かせる。 「そんなにずっと見つめるほど好きなら、今度、カニ食べに行く?」 「あっ、いや、好きですけど。水族館でそんな話されたら一気に現実的になっちゃいますって」 「だって、さっきから真剣な目でカニ見つめてるから」 矢嶋さんは、からかうようにくすくす笑いながらそう言った。 おかげで、その後は、あの魚は美味しい、とか、脂が乗ってなさそうだとか、そんな現実的な会話をしながら館内を周ることになった。