「ありがとう」とバイクを降り獅朗にヘルメットを返した。


「椿、」

「何?」

「昨日は、ありがとうな」

「お礼言われるようなことしてないよ」

「一緒に居てくれただけで十分だ」

「安い男」


私が笑うと「そうだな……」と獅朗も笑った。


本当は嘘。
私も獅朗と同じことを望んでいたから。


一人で迎えた17才。
学が一緒に居てくれたなら……
叶わない願いを私は望んでいた。


「じゃね」


私は獅朗に背中を向けてマンションへ入って行った。