高級ホテルの玄関前。
ドアボーイが当たり前のようにドアを開けてる。


獅朗は動じることもなく車から降り、私が降りようすると「椿姫、お手を」と私に右手を差し出した。


その姿に「何やってんのよ」とクスッと笑みが漏れた。


獅朗もそんな私を見て笑っている。


「じゃあ」


獅朗の右手を握りまるでお姫様ゴッコ。


今日は獅朗の誕生日。
憎まれ口はちょっと封印。


ギュッと握った手から私に視線を移し獅朗が愛しそうに微笑む。


こんな日ぐらい笑っていて欲しい。
何も考えずに単純に笑っていて欲しい。
単純に行かない世界に居るからこそ、そう願ってしまう。


それは獅朗に限ったことじゃない。
蓮沼や嵐、真澄、幸二。


産まれてきたからこその未来……――
生きているからこその未来……――


学には2度と訪れない未来……――