奏で桜

〝まだ〟僕の知る彼女じゃない…。


ーそんなことを考えながら、
僕は上体を起こし、
自分の額を彼女の額に重ねた。



「お嬢様…。貴女がこの先、
どうすればいいのか…。
それは、僕にもわかりません。

しかし、僕は貴女には、幸せに
なってほしいと思っています。

貴女が幸せでいられる。
それが僕の最上の喜びですから。


そのためなら僕は何だってする
つもりです。


…その代わり、貴女はこの先ずっと
〝笑顔〟のままでいてください。

ただ、それだけが…
僕の唯一無二の願いなんです。」


彼女の紅い瞳が、蒼に戻っていく。
僕はこの瞬間が好きだ。
彼女の眼の色が変わっていく。
それは、何か芸術的なものを
感じられるからだ。


宝石…。
そう、例えば、ルビーがサファイアに
変わる瞬間に魅入っているように…。
それほどまでに彼女の眼は美しい。