奏で桜

少し間をおいて彼女は話を続けた。



「私、この話嫌いだったの。
だって酷いと思わない?お互い
愛し合っていたのに、結局どっちも
報われていないなんて。
というより、本当に好きだって
思っていたのなら、
一緒に行けばよかったのよ。
それが愛ってものなんだから。」


また少し間をおいて彼女は話を
続ける。



「…って前までの私は
そう思ってたの。でも…最近は
何でこの主の人が
一緒に行かなかったのか
わかる気がしてきたの。
何の根拠もないんだけれど
多分この人…ものすごく賢い人
だったんじゃないかな?

…吸血鬼は単純な力や身体能力で
言えば、人間よりも遥かに強いわ。
でも、この全世界に比べれば、
どうしようもなくちっぽけな
存在なの。だからこの人が
たとえ屋敷内で力をもった吸血鬼
だとしても、こっちの
世界に出ちゃえばその辺に転がる
石ころと一緒なのよ。
この人にはそれがわかってた。
だから、正確には〝行かなかった〟
のではなく、〝行けなかった〟…
なのだと思うの。