奏で桜

「…ありがとう、アル。」


話が終わると彼女は満足したような
フリをして鈍く笑った。



「…ねぇ、アル。
昔話してあげましょうか?」


「昔話…で、ございますか?」


突然の提案に僕は多少、疑問を抱いたが
彼女をそんな僕を無視して語り始める。



「昔々、あるところに一人の吸血鬼と
一人の人間がいました。
吸血鬼はどこかの屋敷の主であり、
人間はその主に仕える使用人でした。
二人は身分に大きな差があるにも
関わらず、互いのことを好きになり
愛し合ってしまいました。
しかし、それは禁断の恋であり、
絶対に侵してはならない不可侵領域
であったのです。
使用人は主に提案しました。
〝ここを出て、二人だけで暮らそう〟
…と。
しかし、主はなかなか
首を縦に振らず、最後には使用人は
また別の使用人によって殺されて
しまうのでした。
主は殺された〝カレ〟をみて、
涙を止めることができませんでした。
そして、主は悲しみを背負って
これからを生きていったのです。」