「…申し訳ありません。
ですが、これもお嬢様を想っての
ことなのです。
もう暫くお待ちしていただければ
必ずや外に出ることも
可能になりますので
何卒、僕にお時間を下さい。
お願いします。」



〝いつもそう言うくせに…〟
彼女はふてくされた顔で
ぼそっと呟く。

このような一連の流れは
この一年間の中で幾度となく
やってきた。
だから僕には彼女が怒る理由も、
彼女が詰まってしまう言葉も、
全部わかっていたのだった。
…だが、それなのにも関わらず、
次の言葉はいつも決まって
思いつかずにいた。
それも含めて一連の流れと
言えるだろう。



「お嬢様…。」


「…何よ。」


「今晩の夕食、何か食したいものは
ございますか?」


「…別に。特にないわ。
お好きに作りなさい。」


「…畏まりました。」


そう言うと彼女は自分の服を正し、
悲しそうな顔で自分の寝室へ
戻っていく。
それはまるで幼い子が今にも
泣き出しそうな顔と
なんら変わりはしなかった…。





ーその後に食べたおにぎりは
美味しかったが
何故か異様なまでに無機質に感じた。